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北の国のリトル・モリス 岡 理恵子さん(点と線模様製作所) part.1

2021.03.24
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今、ソーイング作家をはじめ、ニードルワークのフィールドから、そしてインテリア業界からも熱い視線を浴びている「模様作家」岡理恵子さん。点と線模様製作所という看板から、複数の作家集団かと思いがちだが、北海道の小樽にある自宅のアトリエを拠点に、土地の匂いと空気感を纏った自然のモチーフを、伸びやかに表現したプリント生地、機械刺しゅうのテキスタイルをつくり出すひとりの作家である。その創作の源泉とテキスタイルづくりの姿勢、表現の過程を探りに、アトリエを訪ねた。

 




心が動くと模様になる

「何かを見たり、いいなって思う瞬間がないと、モノづくりにつながりません」

札幌から小樽に向かう途上、海に面した「」という風変わりな名前の駅で下車し、車で10分ほど山の方角に向かう。この地名は昔ニシン漁で栄え、各家に「銭の箱があった」とする言い伝えによる。

森の景色、草花の群生、ひんやりした空気、そういった北海道のモチーフが自然と色となり、形となり、模様となって生み出されるのである。

「貝殻を集めている箱があるんですが、コレクションそのものよりも、その貝殻を集めた記憶がうれしいというのがあります。たとえば切手をたくさん貼った荷物を送ってくれた人がいたら、その人はその光景を私に見せたかったのかもしれない、と考えると嬉しくなって、模様につながるんです」

自分の感情が動いたときにモノづくりに結びつく、と言い切る姿勢が正直で潔い。

「今の季節だと、背の高い枯れススキを見たときに心が動きました。ススキも北海道らしいといえばそうですが、気持ちが動くことをきっかけにすることにはこだわっています。点と線模様製作所のオリジナルの模様は一年にひとつふたつを目標につくっています」

ゆったりとした時間の流れを追いかけながら、感動があった時に模様をつくる。そこからのプロセスは独特のルーティンがある。記憶を文字に託して言葉にしてゆき、頭の中ではその言葉を頼りに模様のイメージをつくり上げる。写真を撮ることはなく、模様の想像がふくらんできたときにアイディアスケッチをしてつくっていく。

「 “縦に細長いススキの穂”とか“もくもくした雲”とかの言葉で整理しておきます。頭の中で絵にはなっているんですが」 

そうやってでき上がる温かいイメージのプリントや、刺しゅうの布。手のぬくもりが残り、手芸の味わいを漂わせる作風のルーツはどこにあるのだろうか。



 

「bird-garden」 夜の森の方から鳥の声が聴こえて、イメージを膨らませた。実とか葉っぱは想像の中で。


 

「キツネの小道」原画とコットンに刺しゅうした生地。色違いも。キタキツネの足跡を見つけて。キツネの姿も植物も想像の世界。


 

「ムコウトコチラ」の原画とプリント生地。窓枠を通していろいろな境い目を表現。


『手づくり手帖』Vol.08より

撮影/森谷則秋


⇒part.2へ続きます

ソーイングチーム編集スタッフ

ライタープロフィール

・ソーイングチーム編集スタッフ

日本ヴォーグ社ソーイング本の編集者たち(20~40代)。

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