第6回 お題「視力の低下」
ステッチイデーの人気連載「ステッチ&トーク」。普段から親交のある刺しゅう作家の西須久子さんと新井なつこさんがひとつのテーマを元にそれぞれ作品を作り、おしゃべりするページです。対談の本編はvol.33の誌面でお楽しみください。ここでは編集担当者を加えた3人でお送りします。
撮影/白井由香里
本編のお題とは離れますが…
編集部(以下・編) 対談の本編では、黒い布に図案を写す話が出てきましたね。
新井なつこ(以下・新) 手芸用複写紙は何色をよく使いますか?
西須久子(以下・西) 黒とかネイビーの布には白。白糸刺しゅうで白い布にはグレーを使うかな。
編 くっきり印をつけすぎると、白い糸に色が移ったりしませんか?
西 だから、私は刺しゅうが終わった段階で必ず水洗いします。
新 しっかり水に浸けちゃうんですか?
西 そう。シルクの布や新井さんの得意なスタンプワークは別だけど、ほとんどのものは水洗いして印を落とします。白糸刺しゅうじゃなくても洗いますよ。
新 そうなんだ!
西 いつも手を洗ってから刺しているけど、長期間かけて仕上げると、何となく手汗とかも気になるじゃない。そういうのも水洗いすればきれいになるし。
編 どんな風に洗っているか、教えてください!
西須流・刺しゅう布の洗い方
西 水をためた洗面器におしゃれ着洗いの洗剤を少しだけ、数滴入れてね。やさしく押し洗いするんだけど、それだけでも水が濁ってくるから。水がきれいになるまで、水を替えながら押し洗いして。
新 しっかりすすぐ訳ですね。
西 すすぎ終えたら、ぎゅっと握るように絞る。
新 えー! 絞っちゃうの?
西 雑巾みたいにねじることはないけど、ぎゅっと握って水分を切る感じね。それをフェイスタオルの上に裏返しで広げて、端からタオルごとクルクル巻いて、今度はもう少ししっかり絞ります。
編 それでも、まだかなり濡れてますよね。
西 この濡れた状態でアイロンをかけるの。アイロン台に畳んだバスタオルを重ねて、刺しゅうをした布を裏返しで広げます。アイロンはドライでね。布をななめに伸ばさないように、縦・横・縦・横…と布目に合わせてかけます。表側の刺しゅうがつぶれない程度にね。完全に熱が冷めて水分が抜けるまでは平らな所に広げておきます。
新 私は霧吹きしてさらにスチームアイロンをかけてた。湯気もうもうなの(笑)。でも西須先生みたいにパリッと仕上がらなかったから、ドライアイロンもポイントなのね。西須先生、クリーニング屋ばりにアイロンも上手だから。
西 フフフ、クリーニング屋さんになろうかしら。でも、ちゃんとアイロンをかけたのに何となくシワっぽいというか、仕上げがイマイチなこともあるじゃない。そんな時はアイロン用スプレーを使います。アイロンスムーザーっていうのかな。
新 ここで秘密兵器!
西 布の裏にスプレーして、アイロンも裏から当てます。バスタオルの上でね。
新 西須先生の作品の仕上がりって、本当にきれいなんですよ。一度完全に水に浸しているから、刺しゅうの糸が落ち着いていい感じになっているのかも…。
ウールの刺しゅう糸の時は?
編 ちなみにタペストリーウール(編集部注・ウール製刺しゅう糸)を使った時はどうされていますか?
西 ウールの糸だと絞れないから、水洗いはできないよね。ウールの糸で刺しゅうをしたら、まず四角い枠に画びょうでピンと張るの。
編 画材屋さんで売っている木枠ですね。
西 布の裏から霧吹きでたっぷり水を吹きかけて濡らして、それを天日干しするんだけど、布の裏から日光が当たるように干します。1日では乾かないから、何度か張り直しながら数日かけて完全に乾かします。
新 これでウール刺しゅうもふんわり仕上がるんですね。さすが生き字引…。
西 手間はかかるけど、こうすると60%位が100%の仕上がりになります(笑)。
編 今回のお題「視力の低下」から道はそれましたが(笑)、すごくためになるお話でした。
西 でもね、例えばアップルトンのクルエルウール(編集部注・極細ウールの刺しゅう糸)と25番刺しゅう糸を一緒に使っていたらどうする? とか…。
新 素材ミックス、いろいろありますね。
西 こういう時は、水で濡らした綿棒で刺しゅうの下の図案線をそーっとなぞる位しかできないかな。難しいね。
新 やっぱり、印つけも含めて布をできるだけ汚さないようにするのがきれいに仕上げる近道ってことですね。
★本編に登場する便利な用具「クラフトルーペ」と「スタンドルーペ」が通信販売でお求めいただけます。
LEDライトつきスタンドルーペ
クラフトルーペ[1.6倍&2.0倍]
ライタープロフィール
Editor・ステッチイデー編集部
刺しゅう誌『ステッチイデー』編集部です。刺しゅう全般、クロスステッチが大好き。