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nightshades

nightshades(ナイトシェイド)―夜の影

詩情の感じられる名を持つこの糸を生み出したのは、米ニューハンプシャー州南西部にある糸メーカーHarrisvilleDesigns(ハリスヴィル・デザインズ)です。ここは実はブルックリン・ツイード(BT)の糸の紡績所でもあります。18世紀の終わりからハリスヴィルは、この地域を流れるナバヌージット川を利用した水力による紡績の町として栄えてきました。その後アメリカの紡績業が衰退したのちも、当時のコミュニティがそのまま残っている唯一の地域として、現在は街ごと国定歴史建造物に指定されています。




すべてがほぼ黒

同社では、昔ながらの紡毛糸であるロングセラー糸Highlandのほか、近年はBTの糸によく似たツイードのf lyWheel、WATERsheedといった糸をオリジナルで作っていますが、2018年秋、この不思議な糸nightshadesを発表しました。コルモウールを贅沢に使用しつつこの白い羊毛を真っ黒に染めてわずかに色を足し、黒の中に微妙な色のトーンを10色作り出しているのです。全10色すべてがほぼ黒、という大胆なラインナップに驚かされます。

黒糸ばかりのカラーカードの繊細な美しさ


「黒」の美しさ

この糸の誕生秘話を、代々この地で紡績業を営むコロニー家の、現在のハリスヴィル社オーナーであるニック・コロニーに聞いてみました。「これまでハリスヴィルは、昔ながらの素朴で質実剛健な、実用優先の糸を作ってきた。一方nightshadesは『羊から糸まで』のコンセプトを元に、新しく生み出した糸だ。これまでのハリスヴィルの糸と大きく違うのはそのためだ」いわば現在の市場のニーズに合わせた進化であり糸の世代交代であると教えてくれました。

ハリスヴィルの古い紡績機は今も現役


「コルモは肌触りの良さだけでなく丈夫さも兼ね備えたウールで、しかもしっかりと深く染めることができる。求めていたどこまでも深い黒を実現できると思った。明るい色が氾濫する手編み糸の世界にあって、黒の美しさを表現してみたかったんだ」


「両親はこの糸が良く理解できないようだったけど、でも信頼して任せてくれた。市場からは予想外の良い反応をもらったよ。ウールフェスティバルでは毎日補充しても数時間で売り切れてしまった」


深い黒だけの、しかし手触りの良い、弾力のある糸。nightshadesは抗いがたい魅力を持つ糸に仕上がったようです。

nightshades/ American Cormo & Wool 100%

3ply DK, 約250yds, 100g/skein

https://harrisville.com/collections/nightshades/products/nightshades



こちらの記事は『毛糸だま』2019年春号に掲載されました。

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Tricoquelicot /鳥古繰子(とりこくりこ)

ライタープロフィール

・Tricoquelicot /鳥古繰子(とりこくりこ)

編み物がインターネットを通じて広がり始めた頃から毛糸に目覚め、以来世界中から糸と情報を収集。国内外の編み物と糸の「旬」を追いかけている

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