世界中の手芸愛好家の憧れ Maison SAJOU 廃業と復活の歴史 part.1
アンティーク・コレクターや世界中の手芸ファンから愛され続けるMaison SAJOU。 1954年に約120年の歴史に終止符を打ち、一度は廃業したものの、 古い手芸用品の収集家であったフレデリック・クレスタン・ビエ女史によって、2005年に復活を遂げます。 老舗ブランドが甦るきっかけや、Made in Franceにこだわり続ける思いなどを、 フレデリックさんご本人にお聞きしました。
メゾン・サジューの始まり
ヨーロッパの王族や貴族の間では、古くからリネン類にイニシャルを刺しゅうして嫁入り道具とする風習があり、刺しゅうは貴婦人のたしなみのひとつとして親しまれていました。 そんな時代背景もあり、1830年代に、ジャック・シモン・サジュー氏は、パリのシテ島に店を構え、刺しゅう用イニシャル図案の小冊子を発売し始めました。これが、フランスの人気手芸用具メーカー「メゾン・サジュー」の始まりです。
その後、手芸用品の繊細なデザインが評価され、数々の展覧会で賞を受賞。
庶民にも手の届く価格で販売したことなどから、その流行は貴婦人たちから庶民へと広まり、フランスの女性たちから長く愛され続ける老舗ブランドへと成長を遂げました。
しかし、手芸人口の減少という時代の波には逆らえず、1954年、約120年の歴史に幕を閉じることになったのです。
サジューを甦らせた女性
フレデリック・クレスタン・ビエ女史。マダム・サジューとしても知られています。
約50年の時を経て、このメゾン・サジューに注目し、復活させたのがアンティークの刺しゅうや手芸用品の収集家であったフレデリック・クレスタン・ビエ女史でした。
彼女が初めてサジューに出合ったのは、フランス東部のジュラの町にある「べベローズ」という手芸屋さんで働いていたときでした。そして、20歳になる少し前、骨董品屋でひとつの箱と出合うのでした。
その箱には「C.B.」と印刷されていました。自分の名前のイニシャルであったことから思わず購入。後から分かったことでしたが、「C.B.」というのは1825年創業のフランスの老舗製糸会社「カルティエ・ブレッソン」のロゴだったのです。1961年に日本でもおなじみのフランスの糸メーカー「DMC社」と合併した際に、その名はなくなってしまいましたが、デザイン性に富んだ手芸雑貨の数々は、今でもアンティークファンの高い人気を誇っています。
このカルティエ・ブレッソンの箱から始まり、どんどん箱が欲しくなり、そのうち箱だけではなく、箱入りのボビンや当時の手芸店の古いカタログなども収集するようになりました。
まるで魔法の世界を発見したかのような興奮と感動を覚えたのです。それがフレデリック女史の骨董品収集のきっかけとなりました。
フレデリック・クレスタン・ビエ女史が所蔵する、サジューの古い図案集コレクションの一部。クロスステッチ、刺しゅう、かぎ針編み、フェルト刺しゅう、ニット、タペストリーなど、技法や図案のサイズによって表紙の色が異なります。
18世紀後期頃のタペストリーまたはクロスステッチの図案。箱入りの小さな図案で手描きの水彩画によるものです。
『手づくり手帖』Vol.18より
撮影/白井由香里、スタイリング/田中まき子、取材・写真協力/SAJOU、日本紐釦貿易株式会社、翻訳/高橋穂津美
ライタープロフィール
・ソーイングチーム編集スタッフ
日本ヴォーグ社ソーイング本の編集者たち(20~40代)。