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【読み物】押し花 ー植物標本と色彩ー ③

前回から続く〉




植物標本への技術還元

一般市民レベルでの趣味・芸術として広く普及した押し花は、普及に伴い様々な技術・商品が開発されてきました。

ところが押し花の原点である植物標本の分野においては、その後も色に対する需要はあまり喚起されず、標本作製方法において技術的な革新は生じませんでした。

学術的な植物標本は、今と昔、いずれの標本も作製条件が同じ方が研究資料としては良いのかもしれません。

しかし、一般市民レベルで作製される色の残る押し花に強く興味を持つ研究者も出てきました。

より良い植物標本の定義とは一律に語ることは難しいですが、例えば一つの定義として、一つの植物標本から得られる情報量が多い標本が良い植物標本である、と定義付けることも出来ます。

その標本を「いつ、どこで、誰が」採集したかなどが記録されている「標本ラベル」は、学術標本として最低限必要な情報です。

それに加えて、根があり、茎があり、葉があり、花があり、実がある。葉も裏があれば表もあるし実も果肉もあれば種子もある。

季節によってその姿を変える植物ですからそれら全部を持ち合わせる標本は現実には存在しませんが、情報量が多い植物標本を良い標本と定義するならば、そこに色彩と言う情報が加わることは学術的な見地からも歓迎されるべきことではないでしょうか。

最近では色彩を持つ植物標本作りのための道具が販売され、大学や博物館、独立行政法人などの研究機関で使われるようになりました。

(参考サイト:原色植物標本キットhttps//www.oshibana.com/herbarium/

植物標本の規格は世界的にほぼ同じサイズで新聞紙二つ折りの大きさの台紙に標本がおさまるように配置されます。

規格が世界的に同じですので、商品も日本のみならず世界で役立てていただくことが出来ます。

ちなみにこれら最新の道具類が電気を一切使わないアナログ式なのは、フィールドで使用されることを想定していることに加え、世界のどこでも電源、電圧の事を気にせず使用できるようにと言う意図があってのことだそうです。

約半世紀にわたって培われた押し花作製のための技術を今改めて植物標本作製・保存のために活用する事は、植物標本を起源とする押し花が広く普及出来たことへの恩返しなのかもしれません。


 
イチゴの標本も色が残れば食べられそう。
 

 
専用の植物標本作製道具。
(写真は空気圧で植物に圧力をかけるプレス器)





研究資料から魅せる標本へ

「標本」と呼ばれるものには色々な種類があります。化石標本、昆虫標本、骨格標本。

これらの標本を博物館などで目にした記憶を持つ方も多くいらっしゃるでしょう。

しかし同じ標本でもあまり目にしない、あるいは目にしていても記憶にないのが植物標本で、これはひとえに見た目に美しくない、美しくないからあまり展示されない、と言うことがその原因であると思われます。

しかし先述のように、押し花で培われた「色彩を残す技術」を応用・発展させる事で、これから新しく作られていく植物標本は色彩を持つものも多く出てくるでしょう。

植物標本の世界では標本を交換する、と言うことが日本だけでなく世界中の標本庫を持つ研究機関、植物園で行われています。

より多くの標本を収集することが目的ですが、交換したものの中に美しい標本があればどうでしょうか。

きっと誰しも「自分たちもこのような標本を作りたい!」と思うに違いありません。

そして美しいものは自然と飾りたくなるものです。

研究資料として保管されているだけでなく、植物標本庫を飛び出し、全国の博物館や植物園で美しい植物標本が皆様の前に現れる日もそれほど遠くないのではないでしょうか。



 
アクリルパネルで装飾された植物標本(プラントアートの原型)




おわりに

今、改めて押し花の原点である植物標本が色彩を持てるようになりつつあります。

植物標本が色彩を持ったことで「押し花」として広く一般に普及した過程を顧みますと、もしかしたら近い将来、改めて色彩を持った植物標本からまた何か新しいものが生まれるかもしれません。

それが先人たちと同じような芸術、デザインの表現として用いられるようになるのかはわかりませんが、色彩を得た植物標本の未来が大変たのもしく思えてならないのです。

〈おしまい〉




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