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「人」-Creator vol.5

近岡 令 ― part2

CHIKAOKA Rei


❖ 前回より続く


板状のガラスを熔かして、器やアクセサリーなどをつくる「ガラスフュージング」。

その魅力と特徴を、アーティストであり、普及に尽力されている近岡先生に、うかがいました。


――ガラスフュージングの特徴を教えてください

ガラスという素材は、他の素材とは違う特徴をいくつも持っています。例えば透明だったり、実際は冷たく硬いけれど、熔けた液体の状態をとどめていたり。その中でもガラスフュージングは、色鮮やかで自分でデザインが自由にできると同時に、形や大きさも自由に作ることができる表現豊かな技法。

私はいつも、ガラスからいい意味で予想を裏切られる、というか毎回つくるたびに新たに気付かされる、そんな素材だと思っています。


――ガラスフュージングの魅力は何ですか?

キルンを開けるときのドキドキ感。これに私は虜になりました。ガラスを細かな温度管理で思いどおりにできた時はもちろん、思いどおりにできなかった時の「新たな発見」に好奇心をそそられたのです。それは今でもまったく変わりません。温度でいろいろな表情にガラスが変わる、これがガラスフュージングのいちばんの魅力。

それに加えて、型や合わせる金属などそれらを合わせてガラスをコントロールしながら反応を楽しみ、形をつくっていくところがとてもワクワクする時間です。素材に対する人間の想像力ってたかが知れていて、自分の想像どおりガラスを動かすことって相当の熟練の技がいると思います。自分はまだまだ。でもそれだから、素材の新たな一面を知ることができたときは、心があたたかくなるような思いがします。


――むずかしい点や困難なことはありますか?

「重力」による、という点で立体物をつくることがむずかしい。ガラスフュージングの多くは重力によって形が決まるからです。でも私自身は、「重力」にとらわれず自由に形づくりたいといつも思っているようです。そしてそれが、今までガラスフュージングでは、キルンワークでは、できなかったことを可能にすると思うし、新たな表現につながると信じています。


――作品制作でこだわっていることは?

初期の頃から「今まで誰もみたことのないガラス」を自分自身が見たくて制作を続けているように思います。代表作の「Release」もそうで、アメリカでも「これガラス?」「ほんとに電気炉でつくっているの?」と言われました。それは私にとっては最高の褒め言葉です。

ガラスフュージングやキルンワークは他の工芸の中でもまだまだ歴史は浅く、世界的に見ても作家人口が少ないジャンルです。そのため、まだまだ見つけられていないガラスの魅力はたくさんあると思うので、それをできるだけ多く自分の手で掘り出して皆様にお見せできたらと思って制作しています。

『Release』


――制作や指導の際に、どんなことに気をつけていますか?

制作で気をつけていること、それは「先入観を持たない」ということでしょうか。ガラスに大いに振りまわされたいしそれを楽しんですらいると思います。「こうやったらこうなると思う」と予想してつくる時と、「こうやったらどうなるんだろう」と全く予想せず実験のようにつくる時があります。その予想せずつくった時にできたものも、先入観を持たずにじっくり観察します。ときには3〜5年観察し続けることも。そうすることで、何気ない時に「あ!」とひらめくことが時にはあります。その瞬間を大事にしたいし、そこで自由に捉えられるように、ガラスの前では素直でいたい、と思っています。


指導では、ガラスを知る喜びを感じてもらいたい、と思って指導しています。ガラスの楽しみ方って人それぞれだと思いますが、知らなかったことに気づいた時の感動、できるようになった時の喜び、そんな瞬間を感じて楽しんでもらいたいと思っています。


――楽しみ方や使い方についておきかせください

ガラスフュージングでつくる作品は、生活に馴染んで彩を添えるものがとても多いです。また色の種類も多く鮮やかなので、彩りを生活に加えるつもりでつくって楽しんでもらえたらと思います。電気炉を使って自分で温度を変えながらガラスの表情を調整していく、そのプロセスをぜひ楽しんで制作してください。


STUDIO POSI(スタジオポジ)主宰、武蔵野美術大学ガラス研究室非常勤講師。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業、東京藝術大学大学院美術研究科博士号取得。

大学に勤務しながら創作活動を続け、2017年東京藝術大学平山郁夫国際文化賞ほか受賞多数。

著書に『フュージングをはじめよう』、『ガラスフュージング』。日本ヴォーグ社ガラスフュージング倶楽部監修

STUDIO POSI: https://studioposi.com/

Instagram: @rei_chikaoka, @studioposi

Facebook: https://www.facebook.com/rei.chikaoka

ガラスフュージング


KilnArt編集チーム

ライタープロフィール

日本キルンアート協会 STAFF・KilnArt編集チーム

日本キルンアート協会 STAFFは、KilnArtの様々なクラフトの講座企画や商品企画を通じ、作家やメーカーなどとのネットワークが自慢のチームです。
これまでの知識や実際の作品制作も手掛けてきた経験をもとに、皆さまにKilnArtの愉しみを紹介していきます。

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