手の人 『越膳夕香さん』 part.02
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ターニングポイント
東京の大学に進んだ越膳さん、もうすぐ卒業という時期になっても、就職先がまだ決まっていなかった! 仕送りは3月でぴたりとストップ。どうしようかと思っていたある日、新聞の求人欄に『手芸雑誌新創刊スタッフ募集・未経験者可』という広告を見つける。自分で縫ったスーツを着て面接に臨み、見事合格。『パッチワークキルト専科』の創刊編集部員となり、全国各地のキルト作家の作品に囲まれた毎日を過ごす。数年後、生活情報誌の編集部に転職してからは、ほかの手芸やDIYまで、担当するテーマの幅が広がっていく。
そのうちに…
「作家に依頼せずに掲載作品を自分で作ってしまうようになって(笑)」
どうやら本を作るより自分で手を動かすほうが好きらしいと気づき、いつしか手芸作家となっていた。
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お仕着せのものではなくて
幼い頃から染み込んでいる「自分のものは自分で手づくりする」体質に、大人になってからは「完成度の高いものを作りたい」という想いが加わって、新しい知識の吸収にも積極的。洋書も含めて参考資料は惜しまず購入するし、革のバッグづくりは、手縫いとミシン縫い、二人の師匠に教わった。和裁の教室に通ったこともある。マルチな才能に着目され、これまでに出版した著書や、作品を提供した共著は、バッグの本、革小物の本、着物リメイク、編み物…とさまざまなジャンルにわたる。2019年の8月には『がまぐちの型紙の本』を上梓。手持ちの口金に合わせて、角型でも丸型でも、さまざまなデザインのがまぐちの型紙を自分で作れるようにナビゲートした画期的な内容だ。
「私にとってのハンドメイドの楽しさとは、自分の欲しいものを、好きな素材で、自分仕様で作れることです。けれど昨今の手芸本は、手取り足取り親切すぎるんじゃないかな?と思うのです。本に載っているものとそのまま同じとか、キット組みされている通りのものだけ作るのではなく、自分の頭で考えて作る楽しみも知ってもらいたいなぁ、という思いがありました。考えて、工夫して、知恵を身につけるって楽しいことだと思うのです」
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愛蔵書の一部。
バッグの本、布の本、キルトの本…手放せない古い本あり、ネットで表紙だけ見て決めた新参の洋書あり。
「興味のある分野について知ることが、すごく楽しい」
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手芸書の掲載用に製作してきたツールケース(お道具入れ)の一部。
自分の持っている道具や、携行する場所に合わせて使いやすくカスタマイズできるので手づくりしがいのあるアイテムである。デザインや大きさもさまざまに、工夫をちりばめるのが楽しい。
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針道具は何でも気になる。
これは地元の旭川にある雑貨店で見つけたアイヌの道具で、針入れつき糸巻き「ケモヌイトサイェップ(針・縫い糸・巻くもの、の意)」。
優美な彫刻にも惹かれた。かつては貴重品だった針をここに収め、大切にしまっていたという。
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バッグの中のものを広げてもらった。
財布、キーホルダーとそのチャーム、ブックカバー、パスケース、ペンケース、名刺入れ…自分で作ったものばかり。もちろん、バッグ本体もである。
「ブランドのロゴマークつきのもの、ほしいと思ったことがないです」
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これまでに出してきた本の一部。
下段の中央が、2019年の8月に出版された『がまぐちの型紙の本』。
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『手づくり手帖』Vol.23より
撮影/白井由香里
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⇒part.3へ続きます
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ライタープロフィール
・ソーイングチーム編集スタッフ
日本ヴォーグ社ソーイング本の編集者たち(20~40代)。